2019年10月04日

『ザ・レフト UK左翼セレブ列伝』を読んで

ブレイディみかこ氏著『ザ・レフト UK左翼セレブ列伝』を読みました。

著者は、このブログでも過去一度登場したことのある方です(2018年10月16日の記事)。

ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 (ele-king books)
ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 (ele-king books)


内容としては、イギリスの労働者階級出身で成功者となったセレブのうち、左翼的な思想を世に訴えてきた有名人の列伝、みたいな感じです。

金持ちになっても庶民目線をしっかりと持ち、貧しい幼少期ないし下積み時代の気概を失わずに自らの信念を貫いた有名人たちの人生を描いています。

また、そういう庶民出のセレブたちを描くことで、ここ最新のイギリスの政治状況が浮き彫りにもなっています。そこが、有名人たちの人生よりも私には興味深かったです。

例によっていくつか引用してみましょう。

トニー・ブレアの労働党政権は大学授業料を有料化した。そしてデヴィッド・キャメロン率いる現在の保守党政権はそれを大幅に値上げしており、もはや下層の子供たちは巨額の借金を背負う覚悟がなければ大学には行けない。


45歳の労働党党首ミリバンドは社会主義者でさえない。彼は「ケアリング・キャピタリズム(思いやりのある資本主義者)」を理念に掲げている。


伝統的には反権威主義だったはずの左翼人たちが、ポリティカル・コレクトネスという権威を身にまとい、まさに権威主義者のような盲目的姿勢で「それは差別だろ」「今どき時代錯誤」といった常套句で他者を弾劾しているのは皮肉だ。


サッチャー自身が、党派の枠を超えて「一番出来のいい私の息子」と呼んだブレアである。彼が、「エデュケーション、エデュケーション、エデュケーション」と叫んで英国の底辺層の子供たち(&子供たち)の教育の重要性を訴えた時、彼の頭にあったのは「アンダークラスを抜け出し、キャピタリズムに参加できる子供」を製造することだった。


最近のUKでは、ドラッグ、アル中、暴行などのアンダークラス文化がそのままセレブ文化にも移入している様子で(全然働いてない下層と、現実離れした額を稼いでいる上層の人々が同じようなライフスタイルを楽しんでいる事実は趣深い)、所謂お騒がせセレブと呼ばれる人々が犯罪や淫らな行いでタブロイド紙面をにぎわせているが...


「もう一度、純然たるイングランドを取り戻せ」とか言って排外を始めたらそれは右翼だし、「じゃあもう、どこの国だかわかんないっていう新アイデンティティを作りだしたらいいじゃん」と言ってノッティング・ヒル・カーニバルで腰をふって踊り出すような人々が一般にリベラルとか左翼とか呼ばれるのである。


今も昔も、英国の階級の下のほうでは、左と右の壁が溶けて無理なく融合するようなところがある。


NHS(全国民無料の国民保健サービス)にしろ、様々な問題を抱えているのは事実で、例えば「子供が自転車で転んで腕を骨折して緊急病棟に連れて行ったら、酔っ払いやドラッグ中毒者らしき人々がたくさん並んでいて何時間も待たされた」というような在英日本人の不平をよく聞く。しかし、それこそがNHSなのであり、彼らは「酔っ払いやドラッグ依存症の人間は自分のせいでそうなっているのだから、罪もないこどもの方を先に診る」ということはしない。……(中略)……より重症な人から治療するのがNHSであり、まだ死なない人は待たされる(時には何ヵ月も)。そこがこの制度の徹底した平等性でもある。


右と左の定義には諸説あるにせよ、西欧では「右」はキャピタリズムと個人の資産を重んじ、「左」は社会的公正と富の再分配を重んじる人々だというのがだいたい共通の認識になっている。……(中略)……「左」が社会的公正を求める人々であるならば、彼らはしぜん下方に落ちている人々を引き上げたくなるだろう。「左」が個人の資産を軽んじ、富の再分配を重んずる人々であるなら、彼らは自分が所有する知識を個人の資産とせず、それを持たない他者と分け合うだろう。英国にはそうしたことを地べたでやっている「左」さんたちがけっこういることをわたしは知っている。



日本よりも先に高齢化したイギリス、また福祉先進国でもあるイギリスの、その後のサッチャー登場からの巻き戻し(社会主義政策からの反転)や草の根的な助け合いの文化など、生々しい社会事情がうかがえ、とても勉強になる一冊でした。

今後もこの著者の著作が出たら、真っ先に読もうと思いました。







posted by スイス鉄道のように at 07:00| 東京 ☀| Comment(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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