著者は東京外国語大学卒でアラビア語を専攻された方です。また、ハーバード大学に留学したり、東大大学院も出ておられ、現在は母校の東京外大で教授をされておられます。

慈悲深き神の食卓 - イスラムを「食」からみる - (Pieria Books) - 八木久美子
著者はエジプトを何度も訪れていて、そのエジプトの食生活を中心にイスラム文化や価値観を論じておられます。
食生活の紹介というよりは、文化論という感じの内容でした。学ぶことも多かったです。
例によって印象に残った箇所を引用したいと思います。
さまざまな宗教を分類する際、何を信じるかを最優先し、教義の正しい理解を重くみるオーソドクシィの宗教と、何をなすか、どのように振る舞うかを厳しく問うオーソプラクシィの宗教という二つに分けることがあるが、イスラムはユダヤ教と並んで、後者の代表として挙げられることが多い。
イスラム法解釈の世界では、一つの行為について、それが神からどうみえるかという観点から吟味し、義務(wajib)、推奨(mustahabb)、中立・許容(mubah)、忌避(makruh)、そして禁止(haram)という五つの範疇に分類する。義務と禁止だけでなく、推奨、忌避、そして中立・許容という範疇があることに注目してほしい。
社会における最低限の約束事を定めようという実定法の考え方とは大きく異なり、イスラム法が目指すのは、神の意志に沿った生き方を探し出すことであることを考えれば納得がいくだろう。
イスラムは精神的な救いや来世での救済だけを説くのではなく、現世において人々がより良く生きること、そしてこの地上において正義が実現されることを求める宗教である。
こういうレベルの高い文章が随所にあり、読むたびに私は「うんうん」とうなづきながら読みました。
”イスラム教”というと、どちらかというと特殊で取っつきにくい宗教・文化・価値観というのが一般の日本人の感覚だと思いますが、そうではなく、そうした偏見や先入観を誰にとっても理解しやすい「食」という観点からわかりやすく説いてくれてるのがこの本だと言えましょう。
イスラム教徒として生きる決心をするなら、自分探しの旅も必要なくなれば、世の中で起こる諸現象についても何が正義かを容易に判断できるともいえます。
自由すぎる現在の日本社会の問題点があらためてあぶり出される気もしました。
読みやすくかつ面白い、おススメの一冊だと思います。
了